矢車通り~オリジナル小説~

はてなダイアリーから移行させました。

2004-04-01から1ヶ月間の記事一覧

思い出を聴かせてください(4)18枚

十 母屋側のドアのレバーノブを握ったまま文絵は立ち尽くした。ドアの向こうで二拍子の音楽が鳴っているのがはっきり聞こえた。 もうはるみの気持ちは落ち着いただろうか。自分に何が出来るのかわからないまま、はるみと顔を合わせるのは気が重かった。 文絵…

思い出を聴かせてください(3)21枚

七 門扉から大きな二階建ての家へ続く石畳とは別に、左に向かって丸くて平べったい石が並べられていた。先へと視線でたどると半間の玄関に着いた。平屋の小さな家が母屋より少し引っ込んだところに建ち、母屋と渡り廊下でつながっている。 「あちらのおうち…

思い出を聴かせてください(2)26枚

四「木之下さん」 電話帳を呼び出していると後ろから声がかかった。 振り向くとはるみが両手に紙袋をぶら下げて歩いてきていた。さきほどの怒っていたときの声とはずいぶん違う、高く澄んだ声だった。 後ろにひとつでまとめていた長い髪は下ろされ、ファンデ…

思い出を聴かせてください(1)24枚

一 門の前に立った木之下文絵は深呼吸をして、『PUSH』と刻印された横長の黒いボタンを押した。背中は日差しを受けてほんのりとぬくもり、頭の上から桜の花びらが舞い落ちる。 インターフォンの丸いくぼみから受話器をはずす軽い音がした。 「いらない!…