矢車通り~オリジナル小説~

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2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

稲妻お雪 弐の伍

三太夫は郎党二人を見送りながら、幾許かの寂寥感におそわれていた。若いという事は無鉄砲ながら羨ましくもある。歳をとるといろいろ余計な策を弄して、けっく無駄骨におわる。 ゆっくりと立ち上がって二人の向かった森へ入る。途端に木陰のひんやりとした空…

稲妻お雪 弐の四

「まいないじゃよ。これだけ山吹色を見れば、いかな今川に忠誠心のあつい輩でも、転ばぬ筈はなかろう」 三太夫は自信満々でいった。 「まあ金に転ばない人間は少ないだろうがね。それじゃやって見るか」 お雪はそういうと砂金の袋を一つ担げて脱兎のように走…

稲妻お雪 弐の参

「なんだ。ていの良い盗賊退治を言いつけられてやがら。それで本当にやる気かい」 お雪は弁当をすませ、ふくべの水で口を漱ぎながら聞いた。 「やらざるをえんだろ。我らは上杉家の家臣、長尾様のいいつけとあらば」 「たとえ火の中水の中ってんだろ。ああ主…

稲妻お雪 弐の弐

「お握りを食べてる間に今川の残党の話を聞かせなよ」 お雪は相変わらずぞんざいな言葉使いで三太夫を急き立てた。 「どっちが主か分らんな。まあいい、聞かせてやろう。あと一里ほどいった所に妙信寺という荒れ寺がある」 「分かったよ。その荒れ寺に夜な夜…

稲妻お雪 弐の伍

三太夫は郎党二人を見送りながら、幾許かの寂寥感におそわれていた。若いという事は無鉄砲ながら羨ましくもある。歳をとるといろいろ余計な策を弄して、けっく無駄骨におわる。 ゆっくりと立ち上がって二人の向かった森へ入る。途端に木陰のひんやりとした空…