矢車通り~オリジナル小説~

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拍手の向こう側(11)

浦戸シュウ小説目次

「拍手の向こう側」目次
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         11
         
 倉崎美園と鹿山かこの往復メール
         
         §
 倉崎美園さま
 台本読みました。内容もぜんぜんダメですが、何より場面の作り方に問題があります。キャラクターが出てきて、現在の自分の状況を説明する、というのは、いったいどういう作り方でしょうか。百歩譲って、最初は作品世界をセリフで説明してもいいことにしましょう。絵がありませんからやむを得ません。でも、最後のセリフまでキャラクターが何をしたのか説明しているというのはどういうことでしょうか? 書き直してください。
                              鹿山かこ
          §
 鹿山かこ先生
 ご意見をくださいまして、ありがとうございます。こちらの事情を申し上げますと、当演劇部のメンバーは現在まったくセリフの掛け合いができない状態なのです。と、言いますのも、演劇の経験のあるメンバーは三人だけで、あとの七人はまったく経験がなく、これから実技を覚えるところなのです。現在の状態でできる台本として、一人ずつその場面での状況を説明するという方法を取りました。自分でもこれでいいとは思っていませんが、今の状態ではベストだと思います。
                              倉崎美園
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 倉崎さん、なんか、まだるっこしいので、くだけます。
 実技なんざ、やってるうちに覚えます。仲間を信じて、面白い台本に書き換えましょう。これじゃ、なんか、青年の主張みたいで、ぜんぜん面白くないです。つまらない台本じゃやる気も起きませんよ。経験がないのならなおのこと、楽しい台本をやらせてあげてください。なんなら原作をそのまま台本にしてください。
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 鹿山先生。原作をそのまま台本にすることはできませんでした。場面転換が多いのです。背景を変えられません。それに、ご存じのように、舞台でやろうとすれば、肉体的な制約がかかります。人間は一瞬で十メートルも移動することはできませんし、音速に近い高速で動くこともできませんし、できたとしてもお客さんから見えません。
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 倉崎さん。マンガそのままって、忠実に再現しろということではありません。もちろん、マンガ特有の表現も多用していますから、人間がそのままやるのは不可能です。どうも、やりとりをすればするほど、すれ違っていくような気がしてなりません。火曜日なら予定を空けられますので、一度、練習を見せてくれませんか?
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 鹿山先生。直接見てアドバイスいただければ、こんなにありがたいことはありません。演劇部は火曜日は午後三時から六時まで学校で練習をしています。もし、火曜日のご都合が悪くなるようでしたら、月曜と金曜は同じ時間帯に、土曜と日曜は午前九時から午後四時まで練習していますので、いつでもご都合の良いときにいらしてください。歓迎させていただきます。先生が校内に入れるよう手配いたしますので、具体的な日時をお知らせください。
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 それでは五月十五日火曜日の十五時半に行きます。 
          §          
 鹿山先生。それではその時間に校門まで迎えを出します。お目にかかれる日を楽しみにお待ちしております。