矢車通り~オリジナル小説~

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拍手の向こう側(20)

浦戸シュウ小説目次

「拍手の向こう側」目次
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          20

 一幕一場 教会の前         

 神父服姿の角浜と修道服姿のまみが掃除をしている。
 レースの飾りが付いたブラウスと、きれいに広がるフレアースカートを穿いた、なりっちとりのが舞台に走り込んでいく。この二人は最初に美園が示した到達点など、とっくの昔に通りすぎて、息を切らせている演技どころか、追われる恐怖も見ず知らずの人を巻き込むすまなさも、しっかり表現している。
 もうじき出番。
 美園とルイは同じ高校の生徒なので同じ緑のブレザーの制服を着ている。スカートは緑を基調としたチェック柄だ。真面目に見えるようスカート丈は膝下になっている。本来は動きにくい服装なのだが、手や足を動かすとひきつれてしまう箇所に余分な布を縫い込んであり、まるで体操服を着ているように自由に動くことができる。それでいて、動かなければ、まるっきり普通の制服だ。
 海は黒のTシャツとジーパンを穿いて、緑色のスタジアムジャンパーを引っかけている。茶髪に染めて、茶系のドーランを塗り、精悍な雰囲気を出している。
 なりっちとりのが、舞台の裏に引っ込んだ。
 海を先頭に三人で走り込む。角浜とまみを一瞥したあと、バラバラに別れてそれぞれが二人を探す。角浜と海の緊張感あふれるやりとりのあと、三人で下手にはける。
 なりっちとりのが再び登場して事情を説明する。角浜はかくまうことを約束する。
 
一幕二場 夜の工事現場
 
 きれいなドレスを着たなみっちと、黒いスーツ姿のだうらが登場する。二人は美人局まがいのやり方で大人から金を巻き上げたところだ。楽しそうに悪事の話をしていると、海たちがやってくる。
 海に金を取られそうになる。腕に覚えのあるだうらが三人に殴り掛かっていく。美園とルイがきれいな回し蹴りを入れて、だうらをノックアウトする。
 美園とルイが足を高く上げて回ったときに、一瞬、体育館が静まった。美園は男子バレー部のほうをちらっと見た。全員がステージのほうへ体を向けている。
 ウケてる? 
 美園はその光景を胸に刻んで、リハーサルを進めていく。
 十分に脅しをかけた三人は退場する。
 
一幕三場 裏通り

 緞帳が閉まり、幕の前にだうらとなみっちが取り残される。まみが袖から登場して、だうらとなみっちに駆け寄っていく。まみは二人に教会に来るように説得。二人はほかになすすべがなく付いていく。
 
二幕一場 コンビニエンスストア

 緞帳が開くとコンビニエンスストアの店内になっている。こさくが万引きをしようとしているところだ。こさくは美園とルイと同じ学校という設定なので、同じ制服を着ている。ポケットの中に電池を滑り込ませようとして、手を止め、電池を棚に戻そうとする。海が隣に立ち電池を取り上げる。電池は海からルイに渡り、レジを済ませて店を出ようとする美園がぶら下げた紙袋に入れられる。海がこさくの肩を親しげに抱き、コンビニエンスストアから出てくる。
 
二幕二場 裏通り
 
 二人で歩いているうちに小道具が舞台脇に引き込まれてコンビニエンスストアは消える。こさくを囲むように美園とルイが立ち、しばらく進むと立ち止まる。
 海たちはこさくに電池を渡し、これでもう仲間だと宣言する。次はもっとでかいことをやると命令する。こさくがまったく逆らわないのに満足して、三人が退場する。
 
二幕三場
 
 こさくが一人で悩んでいるうちに緞帳が閉まる。こさくは角浜を知っており、相談してみようと言いながら退場する。
 
三幕一場 教会内部

 なりっち、りの、だうら、なみっち、こさくと、被害者五人が深刻そうな顔で、ベンチに座っている。角浜とまみは少し離れて様子を見守っている。これからどうするべきか相談するのだが、誰の案にも問題がありうまくまとまらない。それぞれに脛に傷を持つ身なので、警察や学校に相談したりするわけにもいかない。だうらとこさくは角浜の体格に目をつけて、海たちを脅して脅迫をやめさせてほしいと頼む。角浜は暴力は嫌いですと言い要求をはねつける。
 がっかりするだうらとこさくを、なりっち、りの、なみっちがなだめる。
 とにかく自分たちでなんとかすると決め、明日、もう一度、海たちに手を引いてくれるよう頼んでみて、ダメだったら言いなりになるしかないと覚悟するところで緞帳が閉まる。
 
四幕一場 海たちのアジト

 くつろいでいる海と美園とルイ。角浜が訪ねてくる。角浜はかくまっている五人にもうちょっかいを出さないでくれと海たちに頼む。海たちは言うことをきかない。海たちは強い者が勝つのだと信じているのだ。海は角浜が自分より強いのなら言うことをきくと約束する。角浜は「どういう状態になったら勝ちなのだ?」ととぼけたことを訊いてくる。海は「最後に立っていた奴が勝者だ」と宣言する。
 海たちは角浜に殴り掛かっていくが、ぜんぜん当たらない。
 一時間経過する。
 疲労の色が濃い海たちと涼しい顔の角浜。
 二時間経過する。
 やっと立ち上がる海たちと涼しい顔の角浜。
 三時間経過する。
 もう誰も立ち上がれない海たち。
 「最後に立っていたのは私ですね。では、私の勝ちです。彼らから手を引いてください」とあざやかにセリフを決めたところで緞帳が閉まる。
 
五幕一場 海たちのアジトの前

 びくびくしながらやってくる五人。後ろから角浜とまみが付いてきている。五人が声をかけると、海たちが出てくる。なぜか、ひどく疲れているようだ。海が何か脅しの言葉を言おうとしたが、角浜の姿を認めるとあわてて取り消す。もうお前らと関わり合いたくないと言って、三人とも引っ込んでしまう。
 呆然とする五人にまみが祝福の言葉をかける。
 われにかえった五人は、もう悪いことはしませんとまみに誓って退場する。
 まみは角浜に「何かしたでしょ」と詰め寄る。
 角浜は「いえ、私は暴力は嫌いです」とだけ答える。
 まみと角浜がお互いを見つめ合い、笑ったところで緞帳が閉まる。