矢車通り~オリジナル小説~

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拍手の向こう側(34)

浦戸シュウ小説目次

「拍手の向こう側」目次
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         34
         
 四幕
 
 海と美園とルイが下手から舞台に入ってくると、真ん中で車座になりしゃがみこんだ。三人とも落ち着かなげに体をゆすっている。
「あと何人集めるのさ」 
 ルイが海に話しかけた。
「実行は、全部、ほかの奴にやらせるつもりだから、もう少し年かさのを、何人か捕まえようか」
「運転免許とか持ってる奴ね」
「そう」
 三人とも黙って顔を見合わせたまま、体をゆらし続ける。
「なあ」
 美園が声を上げた。
「なんで、あたしら、こんな格好して座ってるんだ?」
「なんとなく不良っぽいじゃん」
 ルイが答える。
「なんとなくなら、一抜けた」
 美園は立ち上がると、ソファに横たわった。
「二抜けた」
 海が立ち上がって、上手の椅子に座る。
 ルイはバツが悪そうに立ち上がると、体操を始めた。
「なんか、疲れるのよね。この座り方」
「だったらやるな」
 美園と海からツッコミが入る。
 と、そのとき、カランと金属の棒が転がる音が舞台に響いた。
 ハッとして三人が下手に目をやる。
 下手から角浜が登場してきた。
「おや、神父さま。なんのご用ですか?」
 海が面白そうに声をかける。
「実は、あなたがたに脅迫されている人たちをかくまっています。車を傷つけた二人の女の子と、大人からお金を巻き上げていたカップルと、コンビニで万引きをした男の子です。ご存じですね?」
「さあ。よくわからねえが。まあ、続きを言ってみな」
「彼らを脅すのを止めてもらいたいのです。そして、今後、一切手出しをしないでいただきたい」
「別にぃ、俺たちは脅迫なんかしてないけどぉ。まあ、あんたに従う理由はない、とだけ、言っておこうか」
「理由、ですか?」
「ああ。あんた、警察?」
「いえ」
「じゃあ、俺より強い奴?」
「強い……」
「俺、自分より強い奴には従うことにしてんのよ。あんたが俺より強いんなら従ってもいいよ」
「どうすれば、あなたより強いと、納得してくださるんですか?」
「殴り合いして、最後にあんたが立ってたら」
「私は暴力が嫌いです」
「ふざけんな。先にちょっかい出してきたのは、そっちだろ。あんたと一戦やってみたいから、条件出してやってるのによ。のれねえって言うんなら用はねえ。帰れ」
「わかりました。やります。念のためにうかがっておきますが。最後に立っている人が勝ちなんですね? そして、私が立っていたら、あの五人に今後一切手出ししないでくれるんですね?」
「そんな奴らは知らないが。もし、脅迫している奴に会ったら、手出しするなって言っておいてやるよ」
「約束ですよ」
 角浜と海が舞台の真ん中で対峙する。
 角浜はただ棒立ちになっている。
 海は体の右側を角浜のほうに向けている。少しずつ角浜に近づくのだが、相手はなんの反応も示さない。手が届く距離まで来ると、一気に左の拳を角浜の顔面めがけて放った。
 海の拳が当たる直前、角浜が動いて間一髪でかわした。
 海は立て続けにパンチを繰り出すが、ぜんぜん当たらない。
 黙って見ていた美園とルイが加わり三人で角浜を囲む。
 美園とルイが角浜の正面から後ろ回し蹴りを放ち、海が角浜の後ろから殴り掛かる。角浜が少し動くと、三人の足と腕が交差してぶつかった。三人はパッと離れて痛がる。
 その後も入れ代わり立ち代わり角浜に殴りかかっていくが、まったく当たらない。
 上手から黒子が布を持って走り出してくる。布には「一時間経過」と書いてあり、四人を一瞬隠す。布の最後も黒子が持っていて舞台を走り抜ける。
 角浜が中央に立っている。ほかの三人は緩慢な動作で殴り掛かっていくが、スピードが無くまったく当たりそうにない。
 下手から黒子が布を持って走ってくる。「二時間経過」と書いてある。黒子が走り去ったあと、海たち三人は地面にへたり込んでいる。三人とも立ち上がろうとしては崩れ落ちる。
 上手から黒子が布を持って走ってくる。「三時間経過」と書いてある。黒子が走り去ったあと、海たちは激しく息をしながら地面に転がっている。
 角浜はあたりを見回した。
「最後に立っていたのは私ですね。では、あの五人から手を引いてください」
 角浜はニッコリと笑って、下手に退場していく。
 黒子たちが出てきて背景を回すと同時に、海たちは立ち上がり背景の裏に入っていった。