矢車通り~オリジナル小説~

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拍手の向こう側 (35)

浦戸シュウ小説目次

「拍手の向こう側」目次
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         35
         
 五幕
 
 舞台に雀の声が鳴り響く。
 だうら、なみっち、こさく、りの、なりっちが、下手から入ってくる。その後ろから角浜とまみも入ってきて下手側の端に立つ。
 「あの」
 だうらが大道具の裏に声をかけると、海と美園とルイがよろよろしながら出てきた。
「なんだ、まだ用はねえぞ」
 海が息も絶え絶えに応対する。
「俺たち、手伝わないことに決めたんだ。もし、俺たちを見逃してくれないのなら、お前らを警察に売る。俺たちも捕まるけど、宝石強盗になるよりはマシだ」
「あああ? なんだと? 強いもんには従えって、昨日……」
 海がしゃべっている途中で角浜に視線を向け、居ることに気がつく。
「わ、わかった。根性無しには用はねえ。帰れ」
「こ、今後、俺たちに近づかないでくれ」
「それはこっちのセリフだ。もう、お前らとは関わり合いになりたくねえ。とっととどっかに行っちまえ」
 海と美園とルイは大儀そうに背景の後ろに引っ込んでいく。
 取り残された五人は、呆然とその場立ちすくんでいる。
「わかっていただけましたね。ああ、よかった。おうちにお帰りになれますよ」
 五人は声をかけられてようやく動き出し、顔を見合わせた。笑顔になって歓声を上げる。
 りのとなりっちがまみに握手を求めた。
「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。困っている人を見かけたら、必ず助けます」
「お互いさまですから気になさらないで、お気をつけてね」
「はい」
 二人は手を取り合って、下手から退場していく。
 こさくが角浜に頭を下げる。
「おかげさまで、うまくいきました。もう、決して万引きなんかしません」
「おかげさまで、私まで良い気分です。ありがとうございました」
「それではまた、日曜日にうかがいます」
「ええ、待ってますよ」
 こさくは弾むような足どりで下手に退場していった。
 なみっちが、まみに手を振る。
「泊めてくれてありがとう。また行ってもいい?」
「いつでもいらしてください」
「いろいろしちゃった悪いこと。もう、相手なんかわかんないから、謝れないんだけど、代わりに謝られてくれる? 教会って、そういうことしてくれるんでしょ?」
「ええ、そうです。そういうことをするところです。いつでも、気が向いたときにいらしてください」
「あの」
 だうらがあさってのほうを向いたまま口を開く。
「お、俺も考え直すよ。不思議現象が起こったからな」
「ええ」
「じゃあ、また」
 だうらとなおっちは、お互いを抱き寄せながら下手に退場していった。
「よかったですね」
 角浜は舞台中央に向かって歩きはじめる。
「ねえ、神父さま。さっきの、海さん、でしたっけ。神父さまのお顔を見たら、顔色が変わりましたよねえ」
「そうですか?」
「急に態度が変わりましたよねえ」
「気がつきませんでした」
 二人は舞台中央で立ち止まる。
「何か、ゆうべ、なさったでしょう?」
「いえ、何も。私は暴力が嫌いです」
 角浜とまみは顔を見合わせて、ニッコリと笑う。
 スルスルと幕が閉じる。