矢車通り~オリジナル小説~

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離れない(仮)4

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 翌年、二月の末、純子が高校に合格した。
 僕のためならと、純子は猛勉強をして成績を上げていった。本来なら、もうワンランク上を狙ってもいいくらいだったが、とにかく授業料の安い公立に確実に入れたいというのが母親のたっての希望で、純子の実力にしてはのんびりした学校に入ることになった。
 受け持ったほかの生徒も、無事に第二志望の高校までに合格し、僕も家庭教師として合格点をもらえることとなった。新しい生徒を三人斡旋してもらう。そちらに通うことになったので、必然的に純子と会うのは日曜日となった。余分な金は使えないからデートは僕の部屋だ。
 進級のほうも無事に果たし、ようやく三年生になれた。本来なら三年生から就職活動に力を入れはじめるのだが、これといってやりたい仕事もない。単位を取ることとアルバイトをすることに精を出すことにした。
 中学の卒業式が終わると、純子が毎日会いたいとメールしてくるようになった。五分でも十分でも時間があれば会った。本当は時間が無くても会いたいのだが、生活するための時間を削ったら自滅するということは骨身に染みている。アルバイトの時間や、その準備をするための時間が来たら、どんなに別れがたくてもデートを打ち切った。
 生活のバランスを取っていたのが良かったのか、純子とのつきあいは穏やかにゆるゆると続いた。僕は学業とアルバイト以外のことをするヒマもなかったし興味もなかった。自由時間は純子と会うために使った。
 三年生の二月、もう大学の授業はなく、アパートで資料を作っていた。
 午後四時を回ると、ドアの鍵穴に鍵が差し込まれる音がする。
「お帰り」
 僕はふりむきざま声をかける。いつでも僕は君が帰れる場所だとアピールするために、いつも「お帰り」と言う。行き違いがあってケンカをしていても。
 純子がドアの隙間から顔をのぞかせ、僕の顔をみて心底嬉しそうに笑う。そして、そそくさと入ってきて靴を脱ぎ捨て、僕の背中を抱きしめる。
 僕はそのぬくもりを感じるとき、このうえなく満たされる。ここに僕を好きで、僕を尊敬し、僕の存在を認めてくれる人がいる。温かさはその証だ。
 純子がぐいぐいと胸で背中を押してくる。やわらかなふくらみが豊かな弾力を持ち、背中をなぞっている。
 官能を刺激されて、僕は純子の手を取って引き寄せる。体は軽く腕の中にスポッとはまるほど華奢だ。純子のとろんとした目に引き寄せられて唇を重ねていく。
 いつの間に覚えたのか、純子が僕の舌を吸いつけて、歯茎の下を刺激してくる。何度か吸い込まれているうちに、下半身の物を吸われているような気になって達してしまう。最初のときは、自分でもびっくりしてあわててトイレに駆け込んだが、今では最初から純子にもらったナプキンを当てて防御してある。あとで洗わなくはならないが、とりあえず純子を放り出さなくても外にまでは染みてこない。
 達してしまったあとは、正直、純子の顔を見るのも面倒くさいような脱力感におそわれる。だが自分だけ達してしまったのが申し訳ない。それに急かされるような気持ちがなくなるので余裕もある。純子の様子を確かめながら、ひざの上に乗せたまま弄ぶ。
 首筋に指を這わせ、耳たぶをなぞりながら耳の穴まで進む。
「あ」
 可愛い声が漏れて、純子が僕の胸に顔を押しつけてくる。
「どうしたの?」
 わかっているのに意地悪く聞く。
「感じてる顔を見られるのが恥ずかしいの」
 背中にゾクゾクと快感が走る。いっそう強く抱きしめる。
「恥ずかしくなんかないよ。可愛いよ」
 僕は手を胸に下ろす。セーターの上から小さな胸をもみほぐす。何枚も着ているのか反応が鈍い。スカートからシャツを引っ張り出して、下着の下に手をもぐり込ませる。シャツを引き上げながら奥に手を差し込むと、ふくらみのふもとに着いた。ブラジャーの硬いところをそのまま押し上げて、指先を敏感なところに当てる。
 純子がビクンと動いて、背中がグッとのけぞった。追い上げるようにスピードを上げて刺激していく。何度目かで純子の足先がピンと伸ばされ、足の指が内側にクイッと曲がった。
「あ、ああ」
 ため息のような声が出たあと、ひとしきり全身に力が入り脱力する。
「イッちゃったの?」
「わからない」
 聞いてはみたものの、僕にもわからない。エロティックな本に、女が足先まで痙攣するのはイッちゃった証拠だと書いてあっただけだ。
 僕たちの関係はここまでで、この先に進んだことがないから、本当のところはわかりようもなかった。もしかすると、下半身の関係までいけば、また別の快感があるのかも知れないが、お互いに学生の身だしお互いに十分満足できているのだから、危ない橋を渡る必要はない。
 ふと時計を見るともう家庭教師の仕事に出かける時間だった。
「ごめん。純子」
 僕がそう言うと、純子は弾かれたように立ち上がり衣服を直した。
 僕はトイレに入ってナプキンを外す。汚れたところを軽くゆすいでタオルで拭き、元のように納めて出る。ささっと用意を済ませる。
 もう一度、純子を抱き寄せて長いキスをする。
「一緒に出よう。送ってくから」
「もう少しここにいちゃダメ?」
 どうやら純子にとって家は居心地の良い場所ではないらしい。何かというと帰らないとごねる。
「もう日が暮れて危ないから。送らせてくれ。頼む」
「わかった」
 帰り支度といっても、何もない。純子の肩を抱いて、アパートを出る。自転車で二人乗りをして純子の家まで送り届け、純子の母親に見つからないよう、ダッシュで逃げる。
 そんなつきあいだった。
 純子は学業以外には自分のための予定は何も入れず、僕の部屋で料理や掃除の修行にいそしんでいた。月の収支も隠さず教えていたら、日に三百円の食費がよほどかわいそうに思えたのか、ときどき純子がごちそうを持ってきてくれた。