矢車通り~オリジナル小説~

はてなダイアリーから移行させました。

投稿サイトに自分の作品を出す(その3)

2)どんなジャンルの本を読んできたのか書く(案外、ジャンル別のお約束があるので、自分の読書傾向とかけ離れていたら遠慮する)

 ジャンルというのは、読者の便利のためにあるわけです。
 本を読む人は、ヒマだから読むわけじゃないんですね。そこに何かしらの価値を求めて読むわけです。「娯楽」なら「楽しみたい」わけです。楽しみ方にも「泣きたい」「笑いたい」「怖がりたい」「知らない世界を知りたい」などいろいろあります。
 ところが、出版されている本はどんどん増えています。たくさん売れないから多売に走ってるんです。多くの本の中から、どうやって自分の趣味に合う本を探すのでしょうか?
 前に自分が読んで面白かった本を書いた作者なら、また、自分を楽しませてくれるかも知れません。同じ作家の本があれば、それを買うでしょう。でも、一人の作家の出版点数には限りがありますよね。毎月1冊書いてくれるわけではありません。それに、同じ作家ばかり読んでいると飽きたり、先が読めるようになってつまらなくなったりします。
 それで、新しい本、新しい作家を探します。
 では、未知の作家の本が面白いかどうか、どうやって知るのでしょうか?
 片っ端から全て読めば、自分の好みの本に当たることもあるかも知れません。ですが、出版点数は多く、朝から晩まで一生読み続けたとしても、まだ、未読の本が出るでしょう。忙しい現代人が、そんな非効率的なことをしているヒマはありません。何か手がかりをつかんで、それを元に新しい本を探すのです。
 自分が一番好きな作家が「SF作家」と呼ばれていたとします。ならば、次に探す本も「SF」というジャンルの中から探すのです。そのほうが、好みの本にたどりつける可能性が高くなるからです。
 一番効率的な探し方は、そのジャンルの専門誌を読むことです。例えば「SFマガジン」なら、ありとあらゆるSFが載っています。SFマガジンにはミステリーもホラーも載りません。そこに載っている小説はSFなのです。だからこその専門誌なのです。雑誌を読んでみて、文体や内容がいいと思える作家を探し、次にその作家の単行本を買えば、やみくもにそこらへんにある本を手に取るより、はるかに高確率で、楽しめる本を見つけることができます。
 そう、SFにはSFの楽しみ方があるのです。そして、SFの楽しみ方に慣れている人は、なんの説明もなくSFらしい舞台に引き込もうとしたりします。
「船長がボタンを押す。なんの抵抗もなく丸くて赤いボタンは押し込まれた。『発射30秒前』機械の抑揚の無い声が船内に流れる。『20秒前』船内のあちらこちらで作業をしていた男たちが手を止める。『10秒前』手を体の前で合わせる者、右手の拳を左肩に当てる者、右手を額の上にかざす者、それぞれのやり方で乗組員全員が祈りを捧げた。
 核ミサイルは音もなく宇宙空間へ滑り出していった。60億もの人間が住む星へ向かって。」
 この船は何か、船長は何者か、星とは何か、冒頭では、まったく説明されていません。通常SFを読んでいる人たちなら、この先は、そういった背景が明らかにされ、その爆弾の発射によって影響を受けた人達が、復讐したり容認したり、何かのドラマを織りなすはずだと予想します。

 ところが、投稿サイトに出されている素人作品だと、悲しいかな、お約束通りの展開にならないことがあるんですね。SFで始まってるのに、SFにならない。ミステリーの冒頭のはずなのにミステリーにならない。よくあることです。
 本来ならば、「私の作品のジャンルはこれこれです」と執筆の狙いに書いておいて欲しいくらいなのです。が、残念ながら、作品のジャンルを決めるのは実は作者じゃなくて読者なんですよね。作者がホラーのつもりで書いたものでも、SF好きの間で売れたのなら、それはSFとして優れていたのです。
 そこで思いついたのが「読書傾向を教えてもらえばいいのではないか」なんです。
 「なんといっても、新井素子です」「西村京太郎です」「赤川次郎です」あたりを好まれる方の作品ならば、こちらもそれなりに読んでいる作家さんばかりなので、好きな作家さんに似ているにせよ、好きな作家さんと逆に走っているにせよ、コメントしようもあるのですが。
 「森田童子に心酔しました」とか「中村うさぎが最高です」とか、となると、もう、好きな作家さんと似ているのかどうかすら、わからないので、余計なコメントは控えることになります。

 自分の失敗ですが、今でもちょっと胸の痛む感想を入れてしまったことがあります。BLが投稿されていたんですね。いわゆるボーイズラブです。ジャンル自体は知らないことはないんですが、私がせっせと読んでいたのはボーイズラブの黎明期で、作家さんは栗本薫さんただお一人みたいな状態だったんです。専門誌は「ジュネ」といいました。今ではしっかりと基盤を持ったジャンルとして確立していて、商業として成り立っています。
 ですが、ジャンルのことに詳しくもないのに、つい「この作品の背景は重過ぎて、娯楽に使うには不適格です」ってなことを言ってしまったんですね。後日、BL専門の投稿サイトに同じ作品が出されていて、「男のストイックな魅力と、いじらしい恋心が見事に描かれていて、さすがだと思いました」といった内容の感想が付いていたのです。実際の投稿を再現するのは著作権違反って気がしますし、BL独特の「攻め」とか「受け」とかいう用語で書かれていてわかりにくいので要約しました。
 つまり、投稿者さんが求めていた感想は、これだったんです。BLというジャンルの中での評価を求めていらしたのですね。
 そこに気づかず、酷評しちゃったんですね。

 実は、これと同じようなことで、もっと規模の小さいことはよく起こっているのです。
 ショート・ショートの作品に「短か過ぎる。評価できるだけの情報量がない」と感想がついたり、私小説ですって書いてある作品に「自分のことばかり書くな。自分のことにも客観性を持て」って書いてあったりします。

 だから、私は出来れば、作者さんの読書傾向も書いておいてもらえるといいなと思った次第です。「星新一に心酔してます」って方に、短か過ぎるとは言いませんし、「太宰治は私の全てを知ってるんです」と主張する方に、自分のことばかり書くなとは言いませんので。

(その4に続きます)