稲妻お雪 壱の弐
お雪を家へ連れ帰り、小者に言いつけて、身体に巻き付けていたぼろ布をはぎ、頭から湯を浴びせた。まるでいもを洗うような扱いであった。
「案外上玉かも知れませんぞ」と、小者が糸瓜でごしごしお雪を洗いながら言った。
なる程、垢の固まりのようお雪の身体は、名前負けせずに白かった。
「越後だからのう。小野小町の子孫かもな」
三太夫はにやりと笑った。
「小野小町でござるか」
小者は首をかしげながら、まだお雪を洗っている。
三太夫は上杉の殿から拝領した南蛮渡来の煙草に火を付け、ぷかりと煙を吐きながらいった。
「善介、おまえは小野小町がどんなものか知っていて、お雪を洗っておるのか」
善介と呼ばれた小者はむっとした表情をしていらえた。
「あれ旦那。小者だと思ってあんまり俺を馬鹿にしねえ方が身の為さあね」
三太夫は煙管の雁首を煙草盆に叩き付けながら、善介をからかうように聞いた。
「ではどんなものだ」
「陸奥のうまれで、そりゃあ別嬪だったと聞いたがの」
善介はお雪の洗濯板のような胸をごしごし擦りながらいらえた。
「まあ、間違ってはおらんがの。小野小町が美女だったかは請け合えかねるぞ」
三太夫は煙を器用に輪に吐きながらいった。 善介は、いかにも不満げに言った。
「じゃあそういう旦那は本物をを見たのか」
三太夫はそら来たなと内心苦笑した。この男は主人を平気で罵倒する。
しかしそれでいて何処か憎めぬひょうきんな処があった。
「ふむ、そう切り口上にいわれても困るがの。御家老の直江様から聞いた処によると、小野小町は琵琶法師や猿楽師がでっち上げたものらしいな」
直江の名を出して何とかこの場をを誤魔化そうとしたが、どっこいそうは問屋がおろさない。