稲妻お雪 壱の八
「家康よりこの爺さんの方が、よっぽど大狸だねえ。なんであたいみたいな小娘が、家康の引き出物になるものか。あっ、そうか。分かったぞ。家康の野郎、何かの業病に取り付かれ、陰陽師の御託宣で、若い娘の肝を食えば治るっていわれたんだろう」
お雪は本気のようで、青い顔をしていった。
「おいおい、威勢のよい割に迷信深い娘よのう。南蛮から鉄砲がわたり、今はそれで戦をする御時世じゃ。陰陽師などに頼っていられるか。葵の上ではあるまいし。よいかお雪、家康は子煩悩と聞く。そこで見目よい童を相手の懐へ送り込み、好を通じよう寸法なのじゃ」
直江は噛んで含めるようにいった。
「いずれにしても餌じゃないの」
お雪はそういってぷっと膨れた。
「贅沢をいえる立場か。わしが買ってやらねばとうの昔に野晒じゃ」
三太夫が苦虫を?み潰したような顔をした。「ちえっ、又それか。あのねえ親分。大物はあんまり人に恩を売ったのをひけらかさないもんだ。値打ちが下がるよ」
お雪は三太夫に赤んべえをして見せた。
「これはお雪はの勝だな」
直江は大笑いしながらいった。
それから二日後、三太夫・お雪・善介の三人は、春日山城下から姿をくらました。