稲妻お雪 弐の弐
「お握りを食べてる間に今川の残党の話を聞かせなよ」
お雪は相変わらずぞんざいな言葉使いで三太夫を急き立てた。
「どっちが主か分らんな。まあいい、聞かせてやろう。あと一里ほどいった所に妙信寺という荒れ寺がある」
「分かったよ。その荒れ寺に夜な夜な今川の鎧武者の亡霊が出て、里人を悩ませているというんだろ」
お雪は握り飯を頬張った口をもごもごやりながらいった。
「馬鹿者、そんな猿楽の筋書きがあるか。亡霊より生きた人間の方が余程恐ろしいわ」
三太夫はふくべの水を飲みながら、呆れたようにいった。
今まで沈黙していた善介が、お雪の顔をちらりと見ていった。
「全くで御座る」
お雪がこれを見逃すはずがない。
「おや、あたいに喧嘩を売ろうってのかい。隙あらばあたいの股ぐら狙ってるくせに、何が全くで御座るだ。この助平野郎」
「いい加減にせんか」
三太夫はお雪を恫喝した。悪口雑言に付き合っていては話が進まない。
「とにかくその寺は今川ゆかりもので、大きくは無いが堅牢に造られていて、一寸した小城のようになっておるそうな」
三太夫は握り飯の米粒を指から、一粒一粒ねぶり取りながらいった。
「おおよその話は分かったよ。そこに今川の残党が居を構え、徳川方に抵抗しているんだろ。で、あたい達は何をすりゃいいんだい」
お雪は察しの良さでは善介より上を行く。大きな眼をくるくると輝かせて問うた。
「さてそれよ。直江様は家康殿に手土産代わり。そいつ等を退治して、首領格の首を持参せよと言われたが、我ら三人がさような虎穴に入って、大仕事を果たせようかのう」
三太夫は首を捻った。