矢車通り~オリジナル小説~

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稲妻お雪 参の弐

「物事おまえさんの思う通りに行けば目出度いがな」
 善介は溜息をついて、それでも脇差をひきぬいた。
「目出度いのはおまえ達じゃ。この人数にたった二人で歯向かうとな。さいわい此処は寺じゃ。僧もおるし墓も腐るほどあるぞ。安心して冥土へ行きくされ」   
 荒法師が憎まれ口を聞いた。
「まだ冥土に行くつもりはないよ。オボコだもんね」
 お雪はそう叫ぶと手裏剣を構えた。シュッという風を切る音がして、荒法師が喉笛を押さえて地面に転がった。
 それを見た荒法師達は烈火のごとく怒り狂い、もはやお雪と善介は戦って窮地を逃れるよりほか方法がなくなった。
「おい、変な因縁でこうなったが、多勢に無勢、越後の乱波の強い所を存分に見せて、閻魔の所へ道行きと洒落ようぜ」  
「馬鹿言え。おまえと道行きなんて嫌なこった。あたいは絶対逃げ延びてやるかんね」
 お雪はそう叫んで、腰の赤鞘を引き抜いて、疾風のように大の男に向かって斬り込んだ。
 意外に強かった。横にはらった一太刀で、槍を持った大入道を血祭りにあげ、もう次の敵に向かっている。これを見た善介は、負けてはならじと近くの一人に相対した。
 その時石崖の下から三太夫のダミ声が聞こえた。 
「おうい、お前ら何をとち狂って暴れとるんじゃい。わしの言付けを忘れおって」
 乱波の仕事を逸脱している、やっぱりお雪は威勢のいいだけのジャリで、相手との駆け引きを知らぬと三太夫は、上の騒ぎを見て臍を噛んだ。乱波は相手を殺す暗殺者ではない。 いわば下っ端の外交官と思った方がいいだろう。相手を知って、如何に潤滑に交渉の席に引き出すか、その根回しをするのが本分だ。