稲妻お雪 四の壱
それから二日後、お雪の姿が駿府城の城門に現われた。
お雪は門を警備している小者に声をかけた。
「おい、おっさん。家康に会いたいんだけど案内してよ」
聞いた小者の怒るまいことか。六尺棒を振り上げお雪に殴りかかった。
「随分乱暴な所だねえ。三河という所は。うっかりものも聞けないよ」
お雪は体をかわしながらいった。しばらくお雪と小者の鬼ごっこが続いた。
「これ、そのような童と何をしておる。組頭にいいつけるぞ」
声をかけたのはまだ二十歳代と見える武士であった。
小者は慌てて深々とお辞儀をして、お雪の事を悪し様にいいつけた。しかし、かの武士は逆に小者を叱った。
「良い歳をした男が小娘相手にみっともない。よしたがよかろう。松平家の面汚しになろうぞ」
若い武士はそういいながらお雪を見た。なかなかの美男であった。
「これは大久保の若さま。お言葉を返すようですが、こ奴只者とは思えません。お館様を呼び捨てにしたのです」
小者は剥きになっていった。
「はははっ、これは面白い。かような小娘の分際でお館様を怖がらぬとは、たしかに只者ではないのう。よい、身共が預かろう。おい、そこな娘。ついてまいれ」
「そんなもんですかねえ」
小者は呆れ顔でいらえた。
「そんなもんじゃ。おい、そこな娘。ついてまいれ。お館様に取り次いでやる」
若い武士はそういうとさっさと城門を潜った。お雪は小者に赤んべえをして、その武士の後とを追った。
「おい、若い娘がさような真似をいたすと縁遠くなるぞ」
武士が諫言するのをお雪はどこ吹く風と聞き流して城内を見まわした。