矢車通り~オリジナル小説~

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稲妻お雪 伍の参

「情のこわい女子のよう」
 秀吉は曲者の縄尻をとった侭ポカンとそれを見送った。
 安土城では信長が額に青筋をたて、怒り狂っていた。
「ええい。どこの乱波かは知らぬが鋸引きじゃ。お市を狙うとは許せん」
 それを窘めるのはオリンであった。ここで処刑するのは容易い。しかしそれでは先に何かと支障が出てくる。
「おそれながらお館様。頭を冷やされませ。いかに大事な妹様のお命を狙うた曲者とは申せ、即刻鋸引きとは早計に過ぎまする。拷問にかけ何処の手の者か吐かせてからでも遅くはござりませぬ」
 さすがの信長もオリンの理路整然とした諫言にたじろいだ。
「それも道理。ではこの件はオリンに任せよう。これ蘭丸はおらぬか」
 照れ隠しにそう叫ぶ奥へに逃げ出した。そこへもどってきた秀吉が笑いながらいった。
「お館様も案外単純なところがあるのう。あのご気性がきにかかる」
 オリンは秀吉を冷淡な目で見ながらいった。
筑前殿。今少しお考えを纏めてから言葉を発せられた方が、御身のためで御座いますよ」
 秀吉は狐に撮まれたようにキョトンとした顔をした。
「それそれ。その顔が得をする事もあるが、なんいっても狐馬は眉唾物で御座います。貴方がお市様に、恋慕の情を抱いておられる事は、妾ならずとも周知のこと。はした女の末に至るまて噂をしておりまする」  
 秀吉はオリンに腹の底を見透かされむっとしたが、そこは矢玉を潜ってきた歴戦の食わせ者、すぐ態勢を立て直し反撃に出た。