矢車通り~オリジナル小説~

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モテた理由1(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。


 生まれて17年ほど、男女交際に興味を持った覚えがない。
 鹿山かこはクラスメイトと雑談をしていて軽い危機感におそわれた。バレンタイン・デーが終われば、誰それにチョコをあげるのあげないのといった切実な話題は影をひそめる。かわりに、ホワイト・デーでは誰がお返しをくれるだろうと予想したりするようなどうでもいい話題が浮上するのだ。
 バレンタイン・デーはたくさんのチョコが行き交ったので、個々のエピソードまでは見て居なかったが、みなの話を聞いていると本命チョコを渡した女子もけっこういるらしい。最初からカップルだったり、すぐに公認カップルになってしまった女子以外のひとは、返事待ちということになる。
「かこは?」
「あたしは、義理しかあげてないからな。返ってくるのも義理だろ」
「えー? そう? かこの長い黒髪ってけっこう男子に人気あるんだよ? 姿勢だってピンと伸びててさっそうとしているって感じだし。なんていったっけ。えと、ヤマトナデシコ。うん、そう。男子の間では羽織袴で弓道でもやってそうなイメージがあるらしいよ。それか振り袖を着てお茶とかお花とかしてたり……」
 言ってるそばからクラスメイトは吹き出した。ほかの生徒もコロコロと笑う。いつまで経っておさまらないので、かこは唇をつんと上に向けて尖らせた。
「なにがそんなに可笑しいんだよ」
「だって、実物は任侠好きでヤクザマンガを描いて雑誌に投稿しているような、跳ねっ返りなんだって知ってる身としてはさ。ちょっとそのイメージ違うよって言ってやりたくなるじゃない。言わないけど。面白いから」
「言っといてくれよ。相手のイメージになんかつきあえねえよ」
「まあまあ。他人の夢は大事にしないとね」
「あんたが大事にしてるのは、他人の夢じゃなくて、自分の楽しみだろうが」
「バレたか。でも、真面目な話、意中の男、いないの?」
 軽く答えようとしてググッと詰まった。なぜか、みんな身を乗りだしている。なんだ? なぜ、こんなに興味を持たれてるんだ?
「い、いないよ」
「そうかあ」
 明らかにホッとした空気が流れていく。まるでしめし合わせているかのようだ。
「じゃあ。ホワイト・デー楽しみだね」
 それはもしかすると、義理チョコをやった誰かから、本命キャンデーが返ってくるってことか?
 かこは何やらかこには内緒で出回っているらしい話を推測して、ひとり首を傾げた。
 かこに惚れる男なんているわけがないのだ。今まで17年間いなかったのだから、これからだっていないに決まっている。かこは男を恋愛対象として見たことがないのだから、男のほうだって恋愛対象にするはずがない。
 3月14日に、かこは自分が無邪気すぎたことに気づくのだが、今はまだ考えもしなかった。自分が告白される日が来るなんて。