矢車通り~オリジナル小説~

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モテた理由4(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。

 3月14日がやってきた。かこは朝7時半に教室に入った。クラブ活動の朝の練習がある人たちを除けば、かこの登校時間は学校一早い。ギュウギュウ詰めの電車が苦手で、空いている時間を探して早く登校しているうちに自然とこうなった。
 2階の窓から登校してくる生徒たちを眺める。駅からやってくる生徒たちはかこの教室の真下を通って門に向かう。窓枠にもたれてぼんやり見ていると見知った顔が紛れはじめた。
 いつもなら、すぐ読書を始めるのだが、今日は洋平のことばかりが頭に浮かんで、その気になれない。
 8時を回ると洋平が歩いてくるのが見えた。かこには気づいていないようで、頭を前にしっかりと向けて前のめりになっている。肩も腕もガチガチで、ひじは直角に曲がっている。そのまま腕を前後に勢いよく動かすものだから、ただ歩いているだけなのにすごいスピードで進んでいる。
(今日こそは今日こそは今日こそは)
 腕の振りがそんな言葉を繰り返しているように見えるのは錯覚だろうか。
「おいっ、鹿山。ここに置くぞ」
 振り向くとかこの机の上にキャンディーがひとつコロッと転がっていた。去年同じクラスだった男子の一人がそばに立っている。
「ああ、ありがとう」
 かこは手を振った。相手も軽く手を振り返してくる。
 そんな感じで9個のキャンディーが集まったころには、ホームルームが始まる時間になっていた。
 どうやら最後の一つは朝のうちには来ないらしい。
 かこは9個のキャンディーを鞄に丁寧に仕舞った。