矢車通り~オリジナル小説~

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拍手の向こう側(5)

浦戸シュウ小説目次


「拍手の向こう側」目次
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 輪乃森海は言葉を切って、クラスメイトを見回した。演劇部の危機は伝わったようで、アンケートにはみな協力的だった。
「では、演劇部に入ってくれる人はいませんか?」
「輪乃森だけなら、俺、入ってもいいんだけど」
 二つ隣の席の男子生徒が声をかけてきた。確かマンガ研究同好会に入ってる人だ。背が高くて筋肉隆々なのに、ごつい外見に似合わず細かい気を遣う男だ。
「だけって?」
「いや、俺、輪乃森の仲裁には何度も助けられてるからさ。できることなら協力したいんだけど。演劇部の女子ってなんとなく苦手だ。いい加減なこと言ったらバシバシ厳しく追求されそうだ。二人でビシバシ議論やってると怖い」
「え? そう?」
 男子生徒が何人か笑った。
「あの二人の間に入って『まあまあまあ』ってやれるの、輪乃森くらいだよ」
 誰かが声をかけてくる。
「そうかなあ。あの二人、素直でかわいいよ」
「え、ええええ?」
 どよめきが教室内に広がる。
「本当だよ。つきあってみればわかるよ」
「よし。じゃあ。その言葉を信じる」
 マンガ研究会の男をはじめ、何人かの男子生徒が肩口まで手を上げた。
 そのうちの一人が輪乃森に目を合わせてきた。
「入るのはいいけどさ。文化祭で手伝えるかどうかはわからないんだよね」
「うん」
「どうかな。頭数だけあっても、当日参加できない人間がたくさんいてもあんま意味ないかもな。うーん。文化部に入ってる奴は、自分とこので忙しいし。同好会や運動部の奴はクラスの企画であてにされるし。帰宅部はそもそもクラブ自体に興味ないわけだし」
「うん。実際に演劇部の公演のときに手が空いてる人あんまりいないかもね」
「でもさ、教頭、文化祭、演劇部見に来るだろ? きっと十人いるかどうか確かめるだろ?」
「たぶん」
「じゃ、こうしよう。文化祭直前になっても人数が足りなくて、数だけでも揃えたいときは、もう一度ホームルームで言ってくれ」
「うん」
「んで、みんなもさ。演劇部のこと宣伝しよう。そんで入ってもいいって奴とか、文化祭だけ手伝ってもいいって奴がいたら、輪乃森に紹介してやろう。それでいいだろ?」
「うん。ありがとう。じゃあ、そういうことでよろしく」
 輪乃森はニコニコと手を振りながら座った。
 マンガ研究会の彼は、あとで口説きに行こう。
 さっき「入ってもいい」と言った男子生徒たちの名前をレポート用紙に書き込んだ。