矢車通り~オリジナル小説~

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稲妻お雪 弐の参

「なんだ。ていの良い盗賊退治を言いつけられてやがら。それで本当にやる気かい」
 お雪は弁当をすませ、ふくべの水で口を漱ぎながら聞いた。
「やらざるをえんだろ。我らは上杉家の家臣、長尾様のいいつけとあらば」
「たとえ火の中水の中ってんだろ。ああ主持ちはつらいね。でもたった三人でやけっぱちの盗賊まがいの浪人達を料理出来るの」
 お雪の危惧は当然である。乱波は後世の者が思う程、強いわけではない。敵の国に忍び込んで、様子を探ったり撹乱するのが仕事だから、武芸より演技力を重視する。何にでも化ける必要があるからだ。 
「どうでござろう。あれを使っては」
 善介がぽつりといった。
 三太夫が手を打った。
「成程あの手があったな」
 善介が背中に背負っている黒い箱を見てニヤッと笑った。
お雪は首を傾げた。
「越後を出る時から後生大事に、重そうに背負って来たけど、中身は一体何なのさ」
 お雪の好奇心はいやが上にも高まった。
「使い方次第ではこれ以上心強い味方は無い」
 三太夫は思わせ振りにいうと、箱を開いた。
 お雪が中を覗くと、赤子の頭ほどの錦の袋が三つ見えた。
「分かったよ。砂金だろ。佐渡の金山この世の地獄ってね。罪人をこき使って掘り出した血の塊さあね」
 お雪の悪口は留まる事を知らない。
「いかにもその通りじゃが、これ程つよい味方はおるまいて。一袋ばら撒いたら、こっちの手を汚さずに城を落とす事も出来るからな」
 三太夫はにやりとほくそ笑んでいった。 「そううまく行くかね。城攻めには少なくても敵の三倍の人数が要ると聞いたよ。それだけの砂金で頭数が揃うかね」
 お雪はいかにも訳知り顔でいった。
「馬鹿な。誰がそこらをうろついている痩せ浪人を雇うか。そんな事をすればこっちも血を見る事になる。乱波にとつて尤も下手なやり方じゃ」
 三太夫は大袈裟に手を振って打ち消した。
「じゃあどうするんだよ」
 お雪は頬を膨らませる癖を出して問うた。