矢車通り~オリジナル小説~

はてなダイアリーから移行させました。

浦戸シュウ

モテた理由5(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。 今日の授業が終わったことを知らせるチャイムが鳴り響いた。 か…

モテた理由4(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。 3月14日がやってきた。かこは朝7時半に教室に入った。クラ…

モテた理由3(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。 3月6日。明日の卒業式の前日に『3年生を送る会』が催された…

モテた理由2(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。 鹿山かこは移動教室のために廊下を歩いていた。外はどしゃぶり…

モテた理由1(鹿山かこ)

※長編のキャラクターをつかむために、キャラクターの過去のエピソードを書いてみています。キャラクターの人となりがわかるエピソードにすることが目的です。物語にはならないかも知れません。 生まれて17年ほど、男女交際に興味を持った覚えがない。 鹿山…

ミケにお願い(13枚)

私立・方丈学園高等学校は夏休みの真っ最中。だが、今は校内を生徒たちが大勢行き交っている。文化祭の準備をするために全員登校しているのだ。 寝屋川まみ子は一年二組の教室の前に立った。首を教壇側の扉から突っ込む。寄せられた机の固まりの向こうに、西…

コッダとシダミハ(10枚)

山の斜面に洞窟が口を開けています。中から一陣の風が飛び出してきました。風は地面にぶつかり渦巻きました。巻き込まれた枯葉はカサコソと音を立てます。 枯葉がハラハラと地面に落ちました。渦の中心だったところに、子どもが立っていました。白い半袖のシ…

呼び合う二人(14枚)

俺は元旦の昼近くになって初詣に出かけた。近所にわりと有名な神社がある。行ってみると、境内に続く道にお参りの列が出来ていた。 まだ人はけっこう多い。憮然として列の後ろにつく。しばらく歩くと後ろがふさがった。 人と人の狭い隙間を縫って、珍しい光…

「色の無い生活」(現代物)原稿用紙12枚

秋のある日。 恵子は干し物を終えて洗面所に入った。ざっと顔を洗って化粧水をつける。乳液のビンを手に取った。中身が少ない。日に透かして残りを確かめる。 あと十日は使えるか。セールスの小日向さんに注文を出しておかないと。 そんなことを考えながら、…

見ればわかるのに(7枚)

カラオケボックスの個室には流行りの曲が控えめに流れていた。長谷川はソファの上にあぐらをかいて、ネクタイを緩めた。届いたばかりのチューハイに手を伸ばし、手の先にチラッと視線を送る。はす向かいに座る福田が縮こまってうつむいていた。 福田のミスは…

逃亡はこっそりと(後編)16枚

四 「臨時ニュースを申し上げます」 冷やかな男の声が佐々間の頭上から落ちてきた。 「強盗の容疑で全国に指名手配されていた荻原は、今日午後四時二十分、立ち回り先の肉皮町において逮捕されました」 佐々間はダッシュで街頭テレビから離れて、さきほどか…

逃亡はこっそりと(中編)26枚

二 大型トラックや他県ナンバーの車を縫って国道を飛ばし続けた。ラーメン屋がはるか後ろになったころ佐々間が横に並んできた。左手を内側に向けて親指を立て、しきりに横に振っている。 左に行こうということらしい。 藤見は早朝に確認した地図を思い浮かべ…

逃亡はこっそりと(前編)22枚

一 藤見と佐々間は遅い夏休みを九月の半ばに取り、バイクでツーリングをする計画を立てた。 都会から田舎へ。フェリーに乗って往復し、のんびり田舎を巡る旅にしよう。行き先が遠い分、途中の金は乏しいが、どうせ男のふたり旅。金が無ければ野宿して、そこ…

思い出を聴かせてください(4)18枚

十 母屋側のドアのレバーノブを握ったまま文絵は立ち尽くした。ドアの向こうで二拍子の音楽が鳴っているのがはっきり聞こえた。 もうはるみの気持ちは落ち着いただろうか。自分に何が出来るのかわからないまま、はるみと顔を合わせるのは気が重かった。 文絵…

思い出を聴かせてください(3)21枚

七 門扉から大きな二階建ての家へ続く石畳とは別に、左に向かって丸くて平べったい石が並べられていた。先へと視線でたどると半間の玄関に着いた。平屋の小さな家が母屋より少し引っ込んだところに建ち、母屋と渡り廊下でつながっている。 「あちらのおうち…

思い出を聴かせてください(2)26枚

四「木之下さん」 電話帳を呼び出していると後ろから声がかかった。 振り向くとはるみが両手に紙袋をぶら下げて歩いてきていた。さきほどの怒っていたときの声とはずいぶん違う、高く澄んだ声だった。 後ろにひとつでまとめていた長い髪は下ろされ、ファンデ…

思い出を聴かせてください(1)24枚

一 門の前に立った木之下文絵は深呼吸をして、『PUSH』と刻印された横長の黒いボタンを押した。背中は日差しを受けてほんのりとぬくもり、頭の上から桜の花びらが舞い落ちる。 インターフォンの丸いくぼみから受話器をはずす軽い音がした。 「いらない!…

ギブアンドテイク(後編)20枚

作戦を話し終えたとき、町子だけが首を横に振った。 「それはいくらなんでもやりすぎではありませんか?」 女性社員たちはハッと息を呑んだ。作戦を聞いて盛り上がる女性社員のただ中で、こんなセリフを言い出せるなんて。弘子はかなり町子を見直した。 町子…

ギブアンドテイク(前編)15枚

御歳蓋弘子は右手のマイクを口元に近づけた。丹前の袂がゆらゆらと揺れた。浴衣が袖口からのぞく左手でそれを押さえながら顔を左に向けた。宴会場の上座中央であぐらをかいている内水ユリカを見た。 毛先はばらばらなのにまとまった印象のある短い髪形。 し…

紙おむつ狂騒(後編)14枚

弘子と小坂井は五階建てのビルの前に立った。二階より上の窓ガラスは鏡になっているようで、まわりのオフィス街の景色を映している。一階は素通しで中の様子がよく見える。一階のほとんどがロビーのようだ。玄関にあたる自動ドアの横には『タマゴ製紙』と銘…

紙おむつ狂騒(前編)17枚

ひとりを慎む。 そんな言葉は二十六歳になったときゴミ箱に叩き込んだ。 全裸の弘子はドアの向こうのテレビ画面にある時計の表示を見た。生焼けのトーストをかじっては胃にアイスコーヒーで流し込み、五口で食べ終える。コップとお皿を載せたトレイを、左手…

出会うべくして(11枚)

俺の名前は鈴木太郎。28歳。独身。オス。第1156回どか食い選手権のチャンピオンだ。今も俺は必死で箸を動かしている。あと少しで皿をからにすることができる。ちらりと向かいの皿を見る。まだ半分も食べてはいない。勝利は目前だ。ラストスパート。俺…

もうひとつの「ハマナスの実、月の夢」(改稿版)11枚

許可申請の手続きは十五分で終わる。三つある申請窓口は処理の速さゆえにいつも空いている。小田切はそのつもりで今日のスケジュールを組んでいた。午前中に品物を確かめる。午後三時に宇宙輸出局に出向き、提出してあった書類を受け取って帰る。そのあと輸…

Experiment−実験−(改稿版)11枚

ギリィはエアロックの前に立った。十五年の間使われたことのない内扉は、ゆっくり開こうとしている。ギリィは左後ろにいる人型ロボット、マームを振り返った。レンズの目。集音機仕様の耳。スピーカー型の口。玩具のような顔にはどこか愛嬌がある。 「ギリィ…

雪の中で(5枚)

彼女が住む町は雪が降らないところだった。 彼女が5歳の年、1月の空に灰のようなものが舞った。灰は羽毛になり積もった。彼女はいつもの遊び場に行った。普段は2、3歳年上の子供に占領されている滑り台に誰もいない。彼女は歓声を上げて走り寄った。階段…

束の間の休息

携帯電話のディスプレイには神田春子と出ている。予定通り。それでも通話ボタンを押すのに十秒かかった。 「夕べ、隆正の背広から待ち合わせのメモを見つけたの」春子の声だ。 「紀美代の字だったわ。ホテルの名前」 春子は今なんとか声を絞り出しているのだ…

仲間探し

ドアを開けようとした、おれの手が止まった。 「順調です。医者の手が必要な出産なんて7人に1人なんですよ。6人は医者なんていなくても平気なんです。女性はつくづく丈夫だと思いますよ。出産に耐えられるんですから。男だったらショック死しかねませんよ…

義父母

山本詩保は軽い足取りで2階に上がった。廊下の突き当たりが義父母の寝室だ。10畳の部屋にベットが二つ並んでいる。入って右手はクローゼット、左手に義母・知佳子の鏡台がある。義母は今、詩保の息子で、生後6ヶ月の一義をお風呂に入れている。洗顔クリ…

あなたを見つめて(2)20枚

由莉葉は高校を出たら就職するつもりでいる。父親の遺族年金が出るのは由莉葉が18歳になるまでで、さ来年からは出ない。家計は一気に苦しくなるはずだ。母親は進学しても良いと言っているが、特に勉強を続けたいことがあるわけでもない。ここでアピールし…

あなたを見つめて(1)22枚

空気が動いた。 長倉由莉葉は背後を振り返った。小柄な吉田和子の頭上からかぶさるように、中年男が怒鳴りつけている。男の四角い顔は血が上って、赤くなっている。和子は耐えていた。由莉葉は男の視線を受け止めるようにして、和子と男の間に割り込んだ。男…